探検発見 : 国土交通省東京航空局 常陸太田航空衛星センター

所在地 : 茨城県常陸太田市白羽町朝日向 1715 (→Mapion)
訪問日 : 2004-01-17, 2004-04-10, 2006-05-27


茨城県には、以前に取り上げた KDDI 茨城衛星通信センターをはじめ、宇宙通信・スーパーバード茨城ネットワーク管制センター (常陸大宮市)、情報通信研究機構・鹿島宇宙通信研究センター (鹿嶋市) 等の人工衛星地球局が点在しています。

衛星地球局の設置場所を決めるにあたっては、対象となる衛星との間の見通しを確保できる場所でなければならないという地理的制約は当然として、その他にも「通信の妨げとなる電波障害が少ないこと」「地震や台風等の自然災害の影響が少ないこと」「衛星とのデータ送受信需要の多い大都市圏から近いこと」等を考慮する必要があります (他にも「土地が安いこと」「(用途・目的によっては) セキュリティ確保のために人里から離れていること」といった要因もあるかと)。首都圏に近いところでこれらの条件をクリアできる場所として茨城が選ばれてきた、という事でしょうか。

実は筆者は「パラボラアンテナ萌え」という特殊な趣味を持つ者ゆえ、巨大なディッシュが天を仰ぐ衛星地球局施設には大いに関心のあるところです (レドームに覆われてしまっている場合もありますが)。そんなわけで、最近になって新たに茨城県に設けられた衛星地球局をご紹介。

国土交通省航空局および気象庁によって、航空機の航行・管制を支援し次世代の航空保安システムの一翼を担う航空通信ミッションと、気象衛星「ひまわり 5 号」の後継としての気象観測ミッションを併せ持った「運輸多目的衛星 (MTSAT : Multi-functional Transport Satellite) 」の導入が計画され、これまでの「ひまわり」と同じく東経 140 度の静止軌道上に予備機を含め 2 機が投入される運びとなりました。
MTSAT 自体の管制業務および航空機と地上の航空管制施設との間のデータ通信中継を行う地球局として、茨城県常陸太田市と神戸市西区の 2 ヶ所に「航空衛星センター」が新たに整備されています。
東京航空局管内の常陸太田航空衛星センターは、MTSAT 運用開始に先立って 2003 (平成 15) 年 1 月にオープンしました。
航空機と地上とのデータリンクを確保し、航空機の位置情報を管制機関に伝えると共に GPS 補正情報を航空機に提供することで、精度の高い航空管制と航行支援を実現させる重要な任務を担うこととなります。

もっとも肝心の MTSAT は、1999 (平成 11) 年 11 月 15 日の H-II ロケット 8 号機の打ち上げ失敗により太平洋の藻屑と消え、代替の MTSAT-1R は製造に遅延をきたした挙句に製造元である米国 Space Systems/Loral 社の経営破綻で納入が遅れに遅れ、更には打ち上げ用の H-IIA ロケットも 2003 年 11 月 29 日の 6 号機打ち上げ失敗 (このときのペイロードは情報収集衛星 2 機) により 1 年 3 ヶ月にわたりフライトが中断、ようやく納入された MTSAT-1R も 1 年近く種子島で保管を余儀なくされる、と御難続きでありました。
2005 (平成 17) 年 2 月 26 日、H-IIA フライト再開第 1 号となる 7 号機により、ようやく MTSAT-1R は打ち上げに成功、「ひまわり 6 号」と命名されました。その後、2006 (平成 18) 年 2 月 18 日には H-IIA 9 号機により MTSAT-2 が打ち上げられ「ひまわり 7 号」となりました。

なお、もう一方の地球局である神戸航空衛星センターは、当初の MTSAT-1 打ち上げの前、1999 年 4 月に開所しています。開所時期の違いからも察せられるとおり、神戸局が MTSAT-1R の、常陸太田局が MTSAT-2 のメイン地球局として運用されます。もちろん、両センターが相互にバックアップする運用体制となっており、どちらの衛星も、どちらの局からも同様に管制が可能です。


常陸太田航空衛星センター常陸太田航空衛星センター。里川堤防上から遠望したところ。
常陸太田市中心部から R349 を北上すると、右手前方の山腹にこのようなパラボラ施設が見えてくる。まるで秘密基地 (笑)。
(2004-01-17)

常陸太田航空衛星センター白羽スポーツ広場グラウンド傍から、アンテナ 2 基を一緒に見られるほぼ唯一のアングルを望遠レンズで。開局当初は右奥の 1 基 (MTSAT-1R 用) のみで、左手前の 1 基 (MTSAT-2 用) は後から増設されたもの。
なお、航空衛星センター関係者の方に問い合わせたところ、ディッシュ径は 2 基とも 13m とのことである。
(2004-04-10)

常陸太田航空衛星センター航空衛星センター東側の林道からアンテナ 2 基を俯瞰したところ。ただし、このように障害物に邪魔されず写真に収めるのはかなり難易度の高い行為となるので、くれぐれも無理して見に行かれることの無いよう、行動は自己責任で。
(2006-05-27)


常陸太田航空衛星センターへのアクセスは、国道 349 号線を常陸太田から旧里美村方面へ北上し、里川を渡ったところの三叉路を日立市方面へ右折、次の信号を右折します。センターに隣接する「白羽スポーツ広場」を目標とすると良いでしょう。
もっとも、航空衛星センター入口は門が常時ガッチリ閉じられており近付くことはできません。無論、素人がフラフラ訪れても気軽に見学させてもらえる雰囲気は皆無です。
おまけに、アンテナ付近は間近から目視が利かないように (?) 木立で覆われているので、接近してもかえって見え難いだけ。せいぜい、スポーツ広場の中から遠望するのが関の山です。

なお、「ひまわり」と言うと世間一般には気象衛星とのイメージが強いこともあり、常陸太田や神戸の地球局を「新しい気象衛星の基地局」と解釈する向きがあるかも知れませんが、「航空衛星センター」の名称が示すとおり、常陸太田・神戸両局が担当するのは航空ミッションのみです (衛星自体の監視・制御業務があるので、全くの誤りとは言えませんが)。
MTSAT 気象ミッション用の地球局は、従来の「ひまわり」シリーズから引き続き埼玉県比企郡鳩山町の「気象庁気象衛星通信所」が使用されます。

参考文献

東京航空局ホームページ
国土交通省 東京航空局 , <http://www.mlit.go.jp/tokyo_cab/>
航空衛星システムの構成
国土交通省 航空局 管制保安部 , <http://www.mlit.go.jp/koku/04_hoan/gyoumu/satellite/00.html>
常陸太田航空衛星センター パンフレット
常陸太田航空衛星センター, 2002