所在地 : 北海道苫小牧市
訪問日 : 2004-10-09
飛行機で北海道へ行かれる場合、新千歳空港を利用されることが多いかと思いますが、着陸機が R/W01、すなわち苫小牧上空から北向きに真っ直ぐ着陸するコースをとった場合、右手機窓に苫東の石油備蓄基地を見下ろすこととなります。このとき注意して見てみると、タンク群の傍に緑色をした球状の構造物が 2 基存在することに気付かれるかもしれません。
北海道だからと言って夕張メロンの宣伝をしているわけではなく、その正体は内閣衛星情報センター (CSICE : Cabinet Satellite Intelligence Cener) の苫小牧受信管制局、2003 (平成 15) 年に打ち上げられた情報収集衛星 (IGS : Information Gathering Satellite) に命令を送信したり衛星の撮影した画像データを受信するための地球局 (の一つ) です。
IGS は世間一般でいうところの「偵察衛星」であるわけですが、偵察衛星を含む地球観測衛星は多くの場合、北極および南極の上空を通過する「極軌道」に投入されます。地球を縦方向に周回する間に地球自体が自転するため、地球全域をスキャンすることが可能となりますが、当然ながら静止衛星となり得ないため、地上の地球局との間でデータ送受信を行えるタイミングは限られます。このため、IGS が日本列島上空を通過するとき、メイン地球局である北浦副センターの可視範囲外であっても管制や画像データの受信が行えるよう、列島の南北 2 ヶ所に副地球局が設けられています。
南に設置されたのは鹿児島県阿久根市の阿久根受信管制局、そして北に設けられたのが、この苫小牧受信管制局です。
ところで、北海道と言えば「北の防衛の要」として自衛隊が多く駐屯しているところであり、その中には実力部隊だけでなく、極東ロシア軍の動向を探る SIGINT 部隊も含まれます。千歳飛行場から程近い陸上自衛隊東千歳駐屯地の中には、防衛省情報本部の東千歳通信所があり、米軍が AN/FLR-9 の制式名称で呼ぶタイプの通信傍受用円形アンテナ (一般には「象のオリ」の通称の方が有名) が見られます。
また、稚内分屯地内にある東千歳通信所稚内分遣隊は、1983 (昭和 58) 年 9 月 1 日に起きた大韓航空機撃墜事件の際にソ連空軍機の交信を傍受・記録しており、国連の場でこれを公開、ソ連軍機による撃墜の事実を世界に知らしめたことで有名です。
そのような情報収集活動の例を思い浮かべてしまうためか、はたまた「スパイ衛星」という俗称からの連想か、衛星ばかりでなく地球局までも「スパイ施設 = 通信傍受施設」と混同してしまう向きが後を絶たないのですが、情報収集を行うのはあくまでも衛星の方であることをお忘れなく。ついでに言えば、IGS を運用する CSICE は防衛省ではなく内閣情報調査室内の組織なので念のため (CSICE に防衛省からの出向者が少なからず存在することは事実ですが)。
苫小牧受信管制局へのアプローチは、国道 235 号線を苫小牧から浦河方面へ向かうこととなりますが、なにぶん施設が施設だけに案内標識なぞ皆無なので、石油備蓄基地を目標に、各自の努力で探してみるように。
なお、周辺に遮蔽物が無いため、道端に車を留めて施設を眺めたり写真を撮ったりしていると非常に目立つので要注意。
苫小牧受信管制局のほぼ全景。正面からだと目立ち過ぎてしまうので、施設背後からの撮影。
訪問時、この左側で 2 基目のレドームを建造中であったが、さすがにその写真を公開する勇気は筆者にはありません。
(2004-10-09)
ほぼグラウンドレベルにレドームが置かれているのが判る。見れば見るほど、夕張メロンにソックリ。
(2004-10-09)