探検発見 : 内閣衛星情報センター 北浦副センター

所在地 : 茨城県行方市
訪問日 : 2004-01-17, 2004-04-10


1998 (平成 10) 年 8 月 31 日、北朝鮮 (朝鮮民主主義人民共和国) が「テポドン」ミサイルを発射、日本列島を飛び越えて太平洋に落下する事件が起きました。北朝鮮は「人工衛星を打ち上げた」と発表しましたが、その事実はついに確認されませんでした。
アメリカ政府は最終的に「衛星打ち上げだった」との公式見解を発表、韓国国家安全保障会議も、2 段式のテポドンに第 3 段を付加して衛星打ち上げを目指したものが失敗したとの分析を発表しましたが、日本政府は「ミサイル実験の可能性が高い」との見解を変えることはありませんでした。
いずれにせよ、テポドン自体は明らかに大陸間弾道ミサイルを目指して開発されたものであり、衛星打ち上げにかこつけて性能確認を行おうとしたのは間違いないと思われます (無論、衛星打ち上げとミサイル飛翔性能確認のどちらが主目的だったのかは、筆者の知るところではありません)。

北朝鮮当局の意図はともかく、日本国内では「テポドンショック」を契機に、それまでタブー視されてきた偵察衛星保有構想が急浮上し、同年 11 月、日本政府は「我が国の安全の確保、大規模災害への対応その他の内閣の重要政策に関する画像情報の収集を目的とする人工衛星」の導入を閣議決定しました。

日本初の偵察衛星、もとい情報収集衛星 (IGS : Information Gathering Satellite) の概要は、1999 (平成 11) 年 7 月 16 日の宇宙開発委員会で公開されました。
最大分解能 1m のパンクロマチックセンサーと分解能 5m のマルチスペクトルセンサーを搭載した光学衛星 (IGS-O) 2 機、分解能 1〜3m の合成開口レーダー搭載衛星 (IGS-R) 2 機の計 4 機を太陽同期準回帰軌道に投入、これにより地球上の任意地点を毎日少なくとも 1 回は観測可能とし、専守防衛を逸脱しない範囲での安全保障上の情報収集や災害時対策に活用する、というものです。
なお、極軌道周回衛星による地上偵察は、長期にわたる継続的な監視による情報の蓄積と分析から状況と変化を把握する、戦略的情報収集の意味合いのものであり、ミサイル発射等をリアルタイムで把握する目的には向きません。地上の広範囲を 24 時間常時監視する目的の人工衛星 (当然、静止衛星となる) は「早期警戒衛星」と呼ばれ、極軌道偵察衛星とは別のものです。

2003 (平成 15) 年 3 月 28 日、光学機・レーダー機 各 1 機が先行して H-IIA ロケット 5 号機により打ち上げられました。しかしその後、光学機のセンサーが所定の最大分解能を達成できていないとの報道がされています (実際には 2〜3m 程度と言われる)。
また、残る 2 機は同年 11 月 29 日、H-IIA 6 号機の失敗により失われました。
2006 (平成 18) 年 9 月 11 日に H-IIA 10 号機により光学 2 号機が、2007 (平成 19) 年 2 月 24 日に H-IIA 12 号機によりレーダー 2 号機が打ち上げられ、ようやく所定の 4 機体制が実現できる運びとなったものの、3 月 27 日には初回に上げられたレーダー 1 号機が電源系のトラブルにより運用不能となったことが明らかになるなど、前途は多難です。
そして忘れてはならないのは、真に重要なのは情報収集の手段ではなく、人工衛星によって得られたデータの解析能力、そして収集・分析された情報を関係機関が的確に利用できる体制づくりであり、そのノウハウは一朝一夕に会得できるものではありません。結局のところ初代 IGS は、その運用と情報解析のノウハウを蓄積するための試験運用とならざるを得ないでしょう。

IGS を運用する組織は、内閣情報調査室のトップである内閣情報官の直下に「内閣衛星情報センター (CSICE : Cabinet Satellite Intelligence Center)」(東京都新宿区市谷) が設けられ、衛星によって得られた画像情報の収集・分析を一元的に行うこととなっています。
衛星からの情報を受信する地球局は、茨城県は北浦の湖畔に設けられた「北浦副センター」で、2 基の受信アンテナ施設と共に、市谷の中央センターをバックアップするサブセンターとしての機能を有しています。
また、北浦局の受信域外をカバーするために、苫小牧 (北海道) と阿久根 (鹿児島県) に副地球局が設けられています。

なお、「情報収集」を行うのはあくまでも衛星であり、北浦・苫小牧・阿久根の地球局は衛星によって得られた情報を受信するのみで、これら地球局自体が情報収集活動を直接行うわけではありません。自衛隊や米軍の通信傍受施設の類と混同される向きが少なくないようなので、念のため。


CSICE 北浦副センター北浦副センター正門越しに棟舎を見る。これ以上近付く勇気は筆者にはありませんでした。ヘタレとでも何とでも呼んでくれ。
(2004-04-10)

CSICE 北浦副センター北浦副センターのアンテナ施設。レドーム構造となっているのは、風雨からアンテナを守る他にも、アンテナの向きを悟られないためという機密上の理由もあるだろう。
(2004-04-10)


県道水戸鉾田佐原線の鉾田市と行方市の境付近で、北浦とは反対側の台地上を見ると、2 基のレドームが視界に入る筈です。台地へと登る、いかにも最近になって整備されたと思しき真新しい道路を進み、マイクロ波鉄塔の前を左折せず直進した先が、北浦副センター正門となります。
無論、施設が施設だけに、門はガッチリ閉じられているは、監視カメラが睨みを利かせているはで、用も無いのに近付けば一発で不審人物確定です。周囲の巡回警備も行われている模様なので、安易な行動は決してお薦めしません。お約束ですが、ヤジ馬行動は完全に自己責任で。
遠望するだけであれば、鹿島臨海鉄道北浦湖畔駅付近の車窓からも北浦越しに見ることができます。

参考文献

国産ロケットはなぜ墜ちるのか H-IIA開発と失敗の真相
松浦晋也, 日経 BP 社, 2004, ISBN4-8222-4383-4
内閣官房ホームページ
内閣官房 , <http://www.cas.go.jp/index.html>